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最高裁判所第三小法廷 平成2年(オ)1100号 判決

上告人

上里豪

石嶺行雄

佐和田章

右三名訴訟代理人弁護士

宜野座毅

被上告人

第一生命保険相互会社

右代表者代表取締役

櫻井孝頴

右訴訟代理人弁護士

中村敏夫

山近道宣

矢作健太郎

内田智

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人宜野座毅の上告理由について

一商法六七六条二項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者、相続人」とは、保険契約者によって保険金受取人として指定された者(以下「指定受取人」という。)の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者をいうと解すべきである(大審院大正一〇年(オ)第八九八号同一一年二月七日判決・民集一巻一号一九頁)。けだし、商法六七六条二項の規定は、保険金受取人が不存在となる事態をできる限り避けるため、保険金受取人についての指定を補充するものであり、指定受取人が死亡した場合において、その後保険契約者が死亡して同条一項の規定による保険金受取人についての再指定をする余地がなくなったときは、指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者が保険金受取人として確定する趣旨のものと解すべきであるからである。この理は、指定受取人の法定相続人が複数存在し、保険契約者兼被保険者が右法定相続人の一人である場合においても同様である。

二そして、商法六七六条二項の規定の適用の結果、指定受取人の法定相続人とその順次の法定相続人とが保険金受取人として確定した場合には、各保険金受取人の権利の割合は、民法四二七条の規定の適用により、平等の割合によるものと解すべきである。けだし、商法六七六条二項の規定は、指定受取人の地位の相続による承継を定めるものでも、また、複数の保険金受取人がある場合に各人の取得する保険金請求権の割合を定めるものでもなく、指定受取人の法定相続人という地位に着目して保険金受取人となるべき者を定めるものであって、保険金支払理由の発生により原始的に保険金請求権を取得する複数の保険金受取人の間の権利の割合を決定するのは、民法四二七条の規定であるからである。

三そうすると、佐和田英司が被上告人との間で、昭和六一年五月一日、被保険者を英司、保険金受取人を英司の母である佐和田タキ、死亡保険金額を二〇〇〇万円とする生命保険契約を締結したが、タキが同六二年五月九日に死亡し、次いで英司が同六三年一一月一三日に保険金受取人の再指定をすることなく死亡し、タキの法定相続人として英司及び上告人らの四名がおり、英司の法定相続人として上告人ら以外に一一名の異母兄姉等がいるとの原審が適法に確定した事実関係の下においては、上告人ら及び英司の一一名の異母兄姉等の合計一四名が保険金受取人となったものというべきであるから、右死亡保険金額の各一四分の一について上告人らの請求を認容し、その余を棄却すべきものとした原審の判断は正当として是認することができる。前記大審院判例は、所論の趣旨を判示したものとはいえない。論旨は、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大野正男 裁判官貞家克己 裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄)

上告代理人宜野座毅の上告理由

一 原判決は、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。すなわち、原判決は、大審院大正一一年二月七日第一民事部判決に抵触するもので、その意味で法令違背となる。

(イ) 右の大審院大正一一年二月七日第一民事部判決は、判決理由第二の要旨として、「商法第四百二十八条ノ三第二項ハ保険金ヲ受取ルヘキ者ヲ保険金受取人ノ相続人其ノ人ニ限リタルニ非ス保険契約者カ受取人ヲ指定セスシテ死亡シ其ノ以前保険金受取人ノ相続人モ亦死亡シタルトキハ相続人ノ相続人若クハ順次ノ相続人ニシテ保険契約者死亡ノ当時生存スル者ヲ以テ受取人ト為スノ趣旨ナリトス」、と述べている。

(ロ) 本件で、保険金受取人に指定されていたタキにはその死亡当時配偶者はなく、上告人ら三名と保険契約者兼被保険者であった英司を含む四人の子供があった。保険金受取人に指定されていたタキが保険契約後に死亡し、その後に保険契約者兼被保険者であった英司も保険期間満了前に新たな受取人を指定することなく死亡したので、英司死亡当時に生存していたタキの相続人は、上告人ら三名だけとなった。

(ハ) 保険契約者死亡の当時生存する受取人の相続人を受取人となすというのが、前記大審院判決の趣旨であり、本件において、英司死亡の当時生存するタキの第一順位の相続人は上告人ら三名であって、すでに死亡した英司は含まれず、同人の相続人らが上告人らと共に受取人の地位を取得することはあり得ない。すなわち、英司の相続人は、相続人の相続人であって、同人らが受取人の地位を取得するのは、受取人の相続人がいない場合に限ると考えるべきであるからである。

(ニ) 前記大審院判決の判決理由第二が、その末尾の段で「然ルニ原院カ死亡シタル静一ヲ以テ右規定ニ依ル保険金受取人トナリタル者ト為シ被上告人ヲ以テ静一ノ保険金受取ノ権利ヲ相続ニヨリ承継シタルモノト為シ以テ被上告人ノ保険者タル上告人ニ対スル保険金支払ノ請求ヲ是認シタルハ其ノ理由ニ於テ上告人所論ノ如ク当ヲ得サルモノアルモ其結果ニ於テハ前叙ノ理由ニ依リ正当ナリ」、と述べている。すなわち、右判決は、原院が①死亡した静一を商法の規定による保険金受取人と認定したこと、②そして、静一の保険受取の権利を被上告人が相続によって承継したと認定したことは、上告人指摘のとおり誤りであるが、結果的には、被上告人は、相続人の相続人として保険金受取人の地位を取得したというのである。要するに、相続人の相続人が保険金受取人の地位を取得するのは、保険契約者死亡当時生存する保険金受取人の相続人がいない場合に限ると言うものである。

原判決は、保険契約者たる英司の死亡当時に生存していた同人の相続人らも上告人らと共に本件死亡保険金受取人の地位を取得したというもので、右判例に抵触する違法なものであるので破棄されるべきものである。

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